What's new? New York! ニッパー中山 & ケイジ中山のブログ

NY在住?0年のライター&カメラマンがハードコアな三面記事などを紹介。

CD発売が噂されている紐育・ニッパー・ブルースについて

文・ニッパー中山
イラスト・シュン山口
 ある夏、ブルースで名高いテネシー州メンフィスからミシシッピー川沿いのRt.61を小1時間も車で南下してミシシッピー州にはいり、デルタ・ブルースの発聖地クラークスデールを訪問した。猛烈な湿度で蚊がぶんぶ〜んと飛び交い町には大きなギターのモニュメントが建っていた。
 クリストファー・ハンディーは「ブルースのパパ」と呼ばれ、1912年に「メンフィス・ブルース」を、1914年には現在もブルースの古典としてその名が広く人口に膾炙している「セントルイス・ブルース」を作った。がんらい、ディープ・キッス(深口部)じゃなくてディープ・サウス(深南部)の黒人教会での霊歌が純化され、洗練されてブルースが誕生した。
 その内容はプランテーションでの苛酷な労働や生活、愛しあった二人が白人園主によって引き裂かれる悲哀などを歌ったものである。だから、くれぐれも注意しますが、けして陽気な気分のソングではないので、あなたの気持ちもグーンとトーン・ダウンさせ、悲しく鬱なムードで以下の歌を聞いてくださいね。
 アメリカ南部のジメジメした風土の上で醸成された歌はニッポンの風土と通底するとみえて、世界広しといえども日本人ほどブルース好きな国民はなく、とうの昔に本国では消滅寸前の燈であるのに、今日も続々と当地ソングとして作られ、その数は優に数百以上に達する。
 日本の「ブルースのママ」と呼ばれているのは、東北出身の淡谷のり子である。銀ラメ・ドレスを着ながら深刻な顔で腕組みして、♪窓をあければ〜、♪港が見える〜なんて歌っていた。以後、世はブルースにつれ、ブルースは世につれと申しましょうか。美川憲一の柳ヶ瀬ブルース、青江美奈の伊勢崎町ブルース、森進一の港町ブルース、東京下町の労働者街の悲哀を歌った山谷ブルース(作詞/作曲岡林信康)は「♪今日の仕事はつらかった〜、♪あとは焼酎をあおるだけ〜、♪どうせどうせ山谷のドヤ住まい〜、、♪泣いて泣いてみたってなんになる〜」とあり、そして、言うまでもなく、ミーの紐育・ニッパー・ブルースはそれらの精神を継承している。
 それではミーの全痴全霊傾けて創作した「紐育・ニッパー・ブルース」を、スペースの関係で第一章のみですがご紹介致します。何度も申しますが、なにぶん哀調でありますのでハンカチを用意してください、念の為に。つきましてはこれは「ロンドン・ブルース」1969年、作曲/作詞ジィージョ中瀬をプレ・テクストとして私が1993年に脱構築的に変詞・変曲したものです。
 ラッキーにも当地在住していらっしゃいますジィージョ中瀬先生へ、オリジナル同様に金沢弁調で歌をお願いしたのですが、あいにくと多忙のためアン・ラッキーとなりました。適当な歌い手さんがみあたらないので、ミーが自ら歌うことにしました(内心、初めからそう決めていたのだが)。場所は車葱(カーネギ)公会堂。蝶ネクタイをして登場。そこでティーをのみながらスタンディング・オベイションしているニイちゃん、そんなに興奮すると腹がペコペコに減るでようー、何、もう減っているって? 最近の若者は自制心がなくて困ったものだ。
 ソウソウ、書き忘れるところでした。タイヘン、タイヘン。演奏は近頃、巷のメディアに詐欺の疑いで賑わせ、亜米利加ジャズ界のキコウ子と自称しているターナー・T・下山氏率いる「ターナー・下山&ザ・ドリーム・バンド」です。大拍手をもってお迎え願います。バック・コーラスはビィエナ少年合唱団です。

紐育・ニッパー・ブルース
<導入は寂しいソロギターの弾き>ピーン、カララン、ピーン、カララン、、、<モノローグによる語りがある>♪バブル経済に腐敗統治 こんなニッポンはいやだあ〜 どこか行きたいな 霧の都ロンドンか? 花の都パリか? 摩天楼のニューヨークか? いいだろうな〜きっと いいことあるんじゃないかな〜 行ってみようか? お別れだねY子さん 元気で忘れないよ! サヨナラだけが人生じゃないというが、、さーよーおーなーら 泣くんじゃないよ 生きていたらまたきっと会おうね
<ここでジェット機の爆音が入る>キーイイン♪フリー・ランドへ憧れて優越感にみちあふれジャンボ・ジェットへ乗ったとき、ぼくらのブルースが始まりました
<これより合唱が入る>♪ア・ア・紐育・ニッパーブルース〜
♪成田の明かりも消えてしまった さーよーおーなーら Y子さん あの子の涙を想いつつ じっとみつめる飛行機の窓 ガラスへ映ったりんご娘
<合唱>♪ア・ア・紐育・ニッパー・ブルース〜
♪豚か鳩か鶏か 涙の出るようなエア・ホステスのサービスに 最後の御飯と信じて覚悟を決めていざゆかん
<合唱>♪ア・ア・紐育・ニッパー・ブルース〜
♪前略 日本を離れてはや二ヶ月Y子さんどうしているの? ミーは元気です ニッパーのヤニが吸いたいな〜 ラーメンが タンメンギョーザが かっぱ蝦センが ゴボウ・スナックが食べたい いなかの地酒が飲みたいよ! それよりももっとY子さん 君に逢いたいよ!
♪ふかすヤニはUSA バーボンかかえて茶碗酒 カラオケ演歌に今日も夜はふける〜〜
 CDの方はマイナーレーベル「Nipper 8 x 8 = 64」より発売予定。
(1993年7月9日付、ニューヨークOCSNEWS誌掲載)