What's new? New York! ニッパー中山 & ケイジ中山のブログ

NY在住?0年のライター&カメラマンがハードコアな三面記事などを紹介。

あるニッパーの超ヘビー・スモーカー・アメリカ横断旅行記!

文・ニッパー中山
イラスト・シュン山口
禁煙が我慢できず、LA-NY間でわざわざ3回飛行機を乗り換えた輩。
トイレの一服でブザー
 その男は雑誌の編集者であった。いつも締め切りに追われ神経をカリカリさせていた。そして,酒よりタバコが好きであった。飛行機より新幹線が好きであった。バスよりもマイカーの方が好きであった。マイカーの内部は長年のタバコの匂いが付きニコチン色に輝いていた。それほど超ヘビースモーカー、チェーンスモーカーであった。15分と我慢できなかった。
 今まで高所恐怖症を理由に、かたくなに海外取材は断っていた。実は本当の理由は、飛行機の中でタバコが吸えないのが苦痛でたまらなかったからだ。国際線はともかく、広大なアメリカ横断5時間の空旅には禁断症状を起こすほどの恐怖を感じた。
 名案が浮かんだ。LAから小刻みに2時間間隔で乗り換え、その都度、空港で一服しながらNYに到着する方法である。
 念のため、成田空港の免税店でマイルド・セブンを最大免税量買った。席は予約どおりスモーキング・セクションだった。
 ドアが閉まったが、待てど暮らせど出発時間になっても離陸の気配はなかった。「御搭乗の皆様,当機はメカニカル・トラブルのため,いましばらく座席のベルトをお締めになったままお待ちくださいませ」とアナウンスがあった。早くタバコを吸いたいのにお先真っ暗である。長く待たされ、もう我慢ができず、スッチーの目を盗んで、一目散にトイレへ駆け込んだ。
 急いでドアを閉め、おもむろに背広のポケットからタバコを取り出した。ちょっとくらいなら大丈夫だろうと思って1本抜き取った。ヤニに素早く火をつけた。煙を胸の奥深くまで行きわたる程吸い込んだ。そして、一直線に洗面口めがけて吐き出した。
 すると、突然、非常警報ブザーが高く鳴り出した。ドアが激しくノックされ、スッチー3人が凄い剣幕で立っていた。軽蔑のマナコで睨まれ「お客さん困ります!」と、きつい教師調の言葉を貰った。どちらが客だか主客転倒だが、頭を掻きながら席へ戻った。
 水平飛行になって、やっと生々堂々とフカすことができ、神経もだいぶ落ち着いた。目を窓外に向け、ナショナル・ジオグラフィックする余裕も出てきた。
 LA空港に到着。イミグレを出てロビーへ出た。「ノー・スモーキング」のサインがやたらと目に付く。食べたくないがしょうがないのでレストランへ入り、灰皿のある席へついに着けた。うまい。プップカプー!

先客は甘い香りを漂わせ、、、
 国内線に乗った。「当社はドメスティックにおいてトータル・スモーク・フリーを敢行しておりますので禁煙をお願い致します」とアナウンスがあった。まるで死の行進だ。口が異常に乾き、神経がいらだちながらダラス空港に到着。一刻も早く屋外に出て大西部の大空のもと、のんびりと一服つけたかった。
 長い通路を駆け足で抜け、金属探知機の横を通り、カウンターをかすめ、回転ドアを押し、車が並んでいる外道へ出た。すると腰にピストルを下げた警官が怖そうに警備しているので、こっそりと抜け足差し足でビルの陰にかくれた。
 そこには破れジーンズの先着がいて紙巻きのタバコを巻いていた。甘い香りがあたり一面漂った。警官に共犯として逮捕されたら大変なのでほうほうの態で逃れた。しかたなくターミナルへ引き返した。
 次の乗り換え地はテネシー州メンフィスだ。飛行機の真ん中の座席に強制的に座らされた。白ブタさんーーーーいや失礼、白人の重量級の女性の方でしたーーーーにおしくらまんじゅうされ、身動きができず、イライラし、一服つけたくなった。そうだ、万が一のヤニ切れ一時解消法として、日本からパイポを買ってきた。スモーカーのためのおしゃぶり用ニセ・タバコである。実際のタバコを吸っている手付きで口にくわえた。両隣席の人もスッチーも不思議な形のオリエンタル・キャンディーだわという顔付きで眺めていた。
 中西部のメンフィス空港に着くなり、「当空港はトータル・スモーク・フリーです」としつこくスピーカーから流れてくる。分かったことだが少数の指定されたバーとレストランの小空間以外は空港自体が100パーセント禁煙なのだ。肺がヤニに飢えてるのに、慌ただしく乗り換えねばならず、探すどころではない。このカタキはNYで討とう。NYに着いたらお尻の穴から煙が出るくらい5、6本まとめてタバコを吸って吸いまくってやろうと心に誓い、自らを慰めた。

超厳しいNYの禁煙条例
 最後の乗り換え地NY州ユティカという小さな町へ向かった。オネイダ空港と先住民族名が付けられ、売店ではトウモロコシで作ったインディアン・パイプが売られているのに、こんな田舎の空港も全面禁煙である。プロペラ機はスッチーもいない、ドライバー・ガイド的なパイロット・スチュワードの、12人乗りビジネス・エキスプレス線であった。木の葉のように揺れながら無事NY到着。
 しかるになんとこの世界のNYには、聞きしにまさる超厳しい戒厳令的禁煙条例がしかれていた。喫煙者の差別狩りがエイズのごとく猛威を振るい、嫌煙権運動、反煙草運動が渦巻いていたのである。愛煙家にとっては暗黒時代の到来だ。
 特に今年4月10日以来,公共の場ではもとより、レストラン、バー、ショッピング・モール、映画館、劇場まで喫煙する場所が厳格に決められ、融通のきく余地がまったくない。ちょっとでもその辺で一服しようものなら「人殺し!」と糾弾されかねない。この国はガンを野放しにしているくせに煙に対しては厳重に規制している。何たる矛盾だ。クリントン大統領、アウフヘーベンせよ!
 ところで、NYからホームレスが減少したのは、路上でモクが拾えなくなったせいらしい?
(1995年8月4日付、ニューヨーク情報誌OCDNEWS 掲載)