What's new? New York! ニッパー中山 & ケイジ中山のブログ

NY在住?0年のライター&カメラマンがハードコアな三面記事などを紹介。

 素晴しきニューヨークのサンタクロースの贈り物!

文・ニッパー中山
イラスト・シュン山口

 その人は独身男性、37才、趣味はジャズ鑑賞とレコード・コレクション、プロレスとベースボール観戦である。
その人は信州・野沢菜漬けで有名な長野県野沢市で、中学生、高校生相手に塾を経営している。そんなわけで学校が休みの時は、必ずビジネスを閉め、長年いるニューヨークの友人を頼って年に春、夏、冬と3回はコンスタントにこの街へやってくる。するとマイレッジで4回目が無料ボーナス・トリップできる按配だ。だから過去10年間で、24、5回はニューヨークを訪問している。だけど今回みたいな経験は初めてだ。まさしく瓢箪から出た駒とはこのことだ。
 それは1998年師走のことだった。そう、確か、クリスマスとニューイヤーズに挟まれた日の出来事であった。摩天楼の谷間はまだジングルベルの余韻が残り、ホームレスたちはバワリー通りの救世軍で心暖まる炊出し「七面鳥ディナー」と聖なる「God blessの祝福」を授かり安堵の胸をなでおろしていた。一方、気の早い世界各国からのオノボリ観光客たちは逸速く人類終末「ハルマゲドン」が近づく前に、今世紀最後のタイムズ・スクエア、1999年世紀末へのカウントダウンに殺到しようとしていた。街中が狂騒モードに入っていた。私は、夕方の6時頃、ジャケットを着てマンハッタン・ダウンタウンの E.V.(イースト・ビレッジ)番外地で、ニッパー用観光案内書にはアカ丸付き危険地区のアルファベット・シティをのんびりとハイカイしていた。アナキーで猥雑な熱気が頬へ当たり、次第に夜のとばりがおりようとしていた。パンクのネエチャンも、スキンヘッドのニイチャンも、タトゥーの高校生も、人々は早足でホームパーティーへ急いでいた。私は7丁目で偶然に「Vinyl Shop」と看板のかかった中古レコード店をみつけて60年代、70年代のロックを捜し始めた。客は私1人しかいなかった。すると若い普通の白人のニイチャンが店へ飛び込んできた。カウンターのところへいき、CD2枚買ってくれと、スパニッシュの店員にせがんでいるのをちらりと目撃した。スクラッチがあるから駄目と店員に突き返され、しぶしぶ出ていった。私もお目当てのエリック・クラプトンやジミヘンやアルー・クパー等が見つかったので出た。すると誰かが背後より「Mr!」と呼びかけてきた。振り向くと、さきほど、レコード店へCDを売りに来た男であった。切羽詰まった様子だった。憔悴している様子だった。ジャンパーのポケットからCDを1枚取り出し、買わないかと声をかけてきた。良く見るとトッド・ラングレーだった。あまり興味がないので「No thank you!」と断った。するともう一枚他のCDを出した。それはローリング・ストーンズものであった。一瞬の判断の末、CDはキズが付いても聞けないことはないとおもい、「I will buy them for only 5 dollars.」と返答した。「Hey, man! I really need 8 bucks.」と強く譲らなかった。「Bucks?」、そうか、$の意味の俗語だ。こちらもさっきの店内の光景を見ているので「I will only pay 5 dollars because it is scratched.」とやりかえした。結局、向こうが折れて、商談が成立。CD2枚に5ドル払って立ち去ろうとしたら、小さな声で「I have some smokes.」あるよと、突然、耳打ちしてきた。ああ、「Marijuana?」か?

 このあたりは歩くだけで、そこら中からドラック・ディラーが機関銃のように、やれ「スモーク」だ、やれ「スカンク」だ、やれ「ハッパ」だと日本語まで駆使して、昼夜関係なく、24時間、正々堂々と声をかけてくるところだ。ワシントン・スクエア公園と同様にオープン・ドラック・マーケットである。よく新米ニッパーはハッパは葉っぱでも、リプトン・ティーのお茶の葉っぱを騙されて買わされる、とよく聞く。それで、これもどうせニセ物だとおもい、それなら相場はニックル・バック(1袋10ドル)であるから、3ドル分だけくれとドル札3枚を出した。そしたらプラスティックの袋から、緑色のマリファナつぼみを数個手の上に落としてくれた。「These buds for you!」だ。
 暗くなったとはいえ、公然たる路上の人ごみの中であり、あたりの気配を用心深く注意しながら、その蓮っ葉な犯罪性に我ながら驚き心臓の高なりを覚えた。万が一、ポリスへ捕まったらヤバとおもい、まさか、日頃TVでやっている警察のオトリ作戦ではあるまいが、ともかく、一刻も早くその場を去りたかった。素早くそのブツをポケットのなかへねじり込んだ。そしたら、「If you pay another buck,I will give you all I have left.」という。あと1ドル払えば全部くれると言うのだ。エ〜イと手早く1ドル札を渡し、残りを袋ごともらい、その現場を大股で一目散にトンズラした。結局、冷や汗をかきながらCD2枚とマリファナ1袋で合計9ドルの買い物をしてアパートへ帰った。
 居候させてもらっている友人へ「冗談で4ドル1袋、日本円でたったの400円でマリファナを買ってきたけど?」といった。すると、「どうせ、そんなのはニセ物に決まっているじゃん!」と頭から馬鹿にされ、軽蔑され、コケにされてしまった。ま〜あ、ヒマだし、何もやることがないし、いちおう、モノは試しだ。捨てる前に太巻きジョイントにして、ちょっとだけスモーク・インしてみようと思いたった。新聞紙を適当に切り、寿司の巻物の要領で丸め込んでツバをつけてタバコにした。おもむろに使い捨てライターを最大限に点火して「スパスパ!」とケムリを喉へ通した。深呼吸を最大限して4ー5秒間、息を止めてから、やがて、天井高く吐いた。どうも味と匂いは本物らしい。その独特の甘く香しいカオリが漂ってきた。「ふ〜ん」。それほど悪くなさそうだ。完全な疑いのマナコで見ていた友人へ、念のためプクイチを薦めた。そしたら、1、2分もしないうちに、それがスゴイ効き目で、「ドッカ〜〜〜〜ン!」と頭をハンマーで打たれたような快感衝撃をうけた。「オ〜イオ〜〜イ、何〜〜じゃ?これは?」。二人は半分口から泡をふいて意識朦朧とし、もう効きすぎて効きすぎてきすぎて、ブットビそうで、窓を開けて冷蔵庫のような真冬の外気へ顔をだし、ハイの酔いを醒まそうともがいた。
「ウ〜〜ヒヒヒヒ〜〜〜ヒ!」。トホホを容易に通り越してホップ・ステップ・ジャンプし、すーご〜い、キーキーメのチョー高級ブツである。
ミュンヘン、サッポロ、ミルウォキーといえば三大旨いビールの名産地。パナマアカプルコ、ハワイといったら三大旨いハッパの原産地。そのうちの一つのパナマ・レッドであるかもしれない。視覚も聴覚もバッチリと全開し、超極小のゴキブリの糞から隣部屋のステレオ低音部まで視聴できる。大脳皮質が活発に覚醒され、全身の感覚がピリピリとうなっているのだ。「It is tremendously good!」である。もう、居ても立ってもいられない。足が地につかないとはこのことだ。体は自然にアバンギャルドなジャズをやっている「ニィーティング・ファクトリー」へ向かった。これだからニューヨークはヤメられない、トマらない。それからというもの、この味をしめ、あのニイチャンに遭遇しないかと思ってアルファベット・シティを何回となく彷徨したが、いまだに再会してない。残念。
 畢竟、これはきっと神の啓示による数日遅れのサンタクロースの贈り物であった、のだ。
ニューヨークへ来るたび、新しい経験をするが、こんなのは初めてだ。我が町の長野県野沢ではこんなコトは将来西暦3000年、Y3Kたっても起こらないだろう。といってもどちらが良いか悪いかの問題ではないが、こんなハッピーな出来事が不意にやってくるニューヨークが無性に面白い。まだワライがト〜マ〜ラ〜ナ〜イ。チャオ、ビッグ・アップル!ところで、今、笑ったのは誰だ!!(1999年3月2日)